大震災とアート

発売中の雑誌を見ますと、東日本大震災の影響がさまざまな分野の文化芸能に及ぼしていることが、はっきり分ります。001


雑誌によっては巻頭の特集記事を組んだりしているのですが、災害見舞いのページを設けただけで特集などのない雑誌も、計画停電などで発売日の遅延等の影響を受けていたことが編集後記に記されています。002


中でも深刻なのは映画界かもしれません。「キネマ旬報」によりますと、クリント・イーストウッドの「ヒアアフター」や中国映画の「唐山大地震」などかなり数多くの映画が上映中止せざるを得なくなったほか、製作延期になった映画もあるようです。また、原発問題や災害対策などに映画製作者が今後どう取り組んでいくべきか、真剣な議論も雑誌に掲載されており、文化状況が大震災で一変したことを肌に感じます。003


俳句の雑誌では、有名俳人による「励ましの一句」という特集が目につきました。通して読んでみると、「もの言わぬ文芸」である俳句が、こんな時に言えることはやっぱり限られているなあ、というのが正直な感想です。作者の善意は痛いほど分るのですけれどもね……。

ふるさとの草青み初むころなれど     大波(「大」春号より)

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根津美術館のお庭

ひさびさに東京南青山の根津美術館に行きました。いま開催中なのは、中世に中国から渡来した水墨画や書などの渋いしぶ~~~い展示会でした。それはそれでなかなか面白かったのですが、ご承知のように写真撮影禁止ですので、みなさまにお見せすることはできません。2011_02_10_001


しかし、いつ行っても根津美術館のお庭は変化に富んでいて、見飽きることがありません。こんな不可思議な石の造形、ほかで見たことないですよねえ。2011_02_10_002


象さんの鼻に使われている木の枝の見事な曲線! ほかにも巨大な燈篭とか、さまざまな石仏とか、お庭だけで十分美術鑑賞ができてしまうのです。四季折々の草花の様子も、俳人にとっては大事な目のこやしでしょう。2011_02_10_004


春浅き池に浮べて捨小舟       大波

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佐野洋子対談集「人生のきほん」

お天気ねえさんの元締めのようだった半井さんが、週刊誌の不倫報道のせいなのでしょうか、三月いっぱいで降板ですって……。ガックリきました。い~じゃん、不倫の恋だって。不倫すると、お天気が当たらなくなるとでもゆ~のかい?(笑)。文春だろうが、新潮だろうが、週刊誌報道って余計なお節介ばかりでタチが悪いから、私はマンガ週刊誌以外は一切読まない事にしているんです。035


ところで、この本は、故人となった絵本作家でエッセイストの佐野洋子さんが、同じ武蔵野美術大学の後輩である西原理恵子、リリー・フランキーの二人と、人生について語りまくった最後の対談集。いやあ、面白いのなんのって、病気と闘いながらあけすけに語る佐野さんのパワーに、まず頭が下がりました。超おすすめ!034


もともと私は、佐野さんとサイバラのそれぞれウマヘタな絵本が大好きで、さまざまなマンガと一緒に押入れの中に大事に所蔵しています。対談集の中で、佐野さんが「生きる、というのは、死ぬまでのひまつぶしという感じ」「だけど生きてると、くだらないことがおもしろかったりするじゃん」「だから生きてみなきゃ、わかんないんだよね」という言葉は、聖書の箴言のように、お経のサワリのように、心に沁みました。そうか、それが超名作「100万回生きたねこ」の大事な思想だったんだな。036


佐野さんとサイバラの二人の共通点は「怒り」だそうで、男はみんなぶっ飛んでしまいそうですねえ。サイバラの超名作マンガ「毎日かあさん」が映画化されて公開されていますけれど、サイバラに扮した小泉キョンキョンがこの過激さと優しさをちゃんと表現できているか、ちょっと心配。キョンキョンは、同じマンガ家の大島弓子も演じた事があるだけに……。


浅春の木々のゆるがず物言はず        大波

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女優・前田敦子

このトシになって、AKB48のメンバーの顔を覚えることなど到底不可能ですが、たぶんAKBでもっとも知名度の高いあっちゃん=前田敦子さんのことだけはよく知っています。026


最初に彼女を知ったのは、故市川準監督の佳作「あしたの私のつくり方」の成海璃子とならぶ準主役級の女優さんとしてでした。まさか、歌って踊るアイドルだとは、ほとんど気づきもしませんでした。025


この映画は、言ってみれば遠距離携帯メールを軸にした少女同士の心の交流を描いたものですが、映画初出演のあっちゃんは、繊細で傷つきやすい内向的な少女像を見事につくりあげていたと思います。023


それから、大好きだった深夜の連作ホラー青春ドラマ「栞と紙魚子の怪奇事件簿」で、あっちゃんは南沢奈保とコンビを組んで、怖がりで臆病な紙魚子(しみこ)役を好演しました。024


このあと彼女は、大河ドラマ「龍馬伝」で龍馬のかわゆい姪や、木皿泉脚本の「Q10」(キュート)で未来から来たロボットをたてつづけに演じ、女優さんとして十二分に幅をひろげたと思います。聞くところによりますと、超ベストセラーの「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の映画化作品に出演するそうで、新進女優のあっちゃん、これからますます楽しみですよねえ。おや、ひさびさに出来たご贔屓女優さんを取り上げたので、つい力が入っちゃいましたぜ(笑)。


浅春のコートに犬を包み抱き       大波

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河野裕子歌集「葦舟」

去年8月に乳がんのため64歳で亡くなられた歌人の河野裕子さん。短歌は門外漢ですけれども、率直に病中の歌を詠む河野さんはかなり好きでした。006


その河野さんの生前最後の歌集だという「葦舟」、どの頁を開いても病気と闘いながら詠み続けてきた一首一首に心が打たれます。2005年から5年間の病中歌、夫君の永田和宏さんと二人のお子さんの家族(全員歌人です)との絆も詠われています。「歌が無ければ、たぶん私は病気に負けてしまっただろう」という後書の言葉、亡妻のことを思い出して深く共感しました。007


それにしても、同じ短詩型文学ながら俳句には決して無い短歌というもののなまなましいドキュメント性に圧倒されます。「歌人として死にゆくよりもこの子らの母親であり君の妻として死ぬ」…こんなふうに真っ直ぐに心をさらけだすことは俳句には到底できませんね。歌を読みながら、ああ、やっぱり私は俳人の枠から逃げられないなあ、としみじみ思いました。だって、いろいろな歌の中から、結局「黄の蝶が真冬の日向に翅閉ぢて蝶の時間の中に睡れる」のような歌に惹かれる自分を見つけてしまいますからね。よい歌の数々を残されて逝った河野裕子さんを、心から悼みます。


ろう梅のいよよ明るく冬深し        大波

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村上春樹「村上ソングズ」

ほたるさん、ふるさと仙台がホワイト・クリスマスだったなんて、知りませんでしたよ。私が子どもの頃は、仙台だってしょっちゅう雪が積もっていましたが、近年では珍しくなっていたようで、青葉山の雪を見に行きたかったなあ。とにかく、年賀状書き、がんばってくださいね。私もすべてパソコンまかせながら、作業進行中です。2010_12_27_001


さて私は、村上春樹さんの小説は、「ノルウェイの森」ぐらいしか読んだことがないのですが(しかも内容はほとんど忘れてしまった…汗)、ジャズを中心にした音楽について語る春樹さんの本は大好きなのです。この新書版「村上ソングス」(中央公論新社)も、その一冊。2010_12_27_002


この本では、ジャズやポップス、ロックなどさまざまな歌の原詞を、春樹さんが翻訳すると同時に、エッセイ風の楽しい解説を付けており、翻訳家でもある春樹さんならではの一冊です。例えばヘレン・メリルが歌った「ブルーに生まれついて」(Born To Be Blue)については、作曲のメル・トーメのレコード・ジャケットをあしらった和田誠さんのイラストも素敵だし、春樹さんの文章もヘレンの歌への溢れんばかりの愛情が満ちていて、最高です。2010_12_27_003


レイモンド・チャンドラーの「ロング・グッドバイ」(長いお別れ)のからみもあって、私の最大の愛聴曲「さよならを言うたびに」(Ev'rytime We Say Goodbye)についても、ジューン・クリスティの歌を「美しい楷書体のような音楽」と書いた春樹さんに深く共感してしまいました。素敵な文章家ですねえ、春樹さんは。チャンドラーの「リトル・シスター」(かわいい女)の翻訳は近々読む予定ですが、文庫になった「意味がなければスィングはない」(文春文庫)も早く読まなくちゃ!


賀状かく無沙汰をわびる心地にて       大波

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絵本「きみのかみさま」

このトシになって買う絵本といえば、西原理恵子の絵本ぐらいです。2010_11_27_004


「いけちゃんとぼく」につづく第2弾。「きみのかみさま」は、ひょっとすると、サイバラねえさんの最高傑作です。2010_11_27_006


アジアの豊かな自然と過酷な現実の中で、人は生まれ死んでいく。そのことだけを繰り返して描いている全14話。2010_11_27_005


単純な線と色が、どんな宗教の書や哲学書よりも深い物語を綴っています。おすすめ!2010_11_27_007


帰ります神こどもらの瞳より         大波

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そうか、もう君はいないのか

八年前に妻に先立たれて以来、同じようにガンなどで伴侶を亡くした人の手記やエッセイ、それを素材にした映画やテレビドラマなどは、一切見ないようにしてきました。はっきり理由は言えませんが、一言で言ってしまえば、その類のものを見るのは「からだに悪い」と思ったからのようです。例外は、江藤淳「妻と私」、川本三郎「いまも、君を想う」。004


去年放映された「そうか、もう君はいないのか」というテレビドラマが、経済小説の草分けである城山三郎さんの手記を原作にしたものであることは知っていましたが、観てしまうと相当に「からだに悪」そうな予感がしたので、結局観ずじまいでした。Img_0802


ところが、このお盆の期間中、その原作が新刊の文庫として店頭に並んでいるのを何気なく買い、自宅で一気に読んでしまったのでした。もともと私は、直木賞受賞作の「総会屋錦城」以来の城山三郎ファン。その淡々とした筆致の文章、剛直とも言えるまっすぐな表現に、やはり深く魅了されてしまったのです。同じ境遇の人の手記を読んで感動したというのではなく、城山さんという作家の類稀なる率直さ、しかも十分に抑制の利いた愛情表現に強く打たれたと言ってもいいでしょう。Img_0807


末尾に付された次女井上紀子さんの追悼の文も心のこもったもので、これを読んで私は涙をこぼしてしまいました。かといって、テレビドラマ化されたものをDVDなどで観たいという気は、やっぱり起きてきませんでした。主演の田村正和さんや冨司純子さんには申し訳ないけれども、この世界を映像化したら、どうしても「からだに悪い」と思わざるを得なかったからです。


百合一本手向けて汝の魂送り       大波

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M吉くんの個展

きょうも炎帝がどっかと腰を据えたままの暑さでした。Img_0689


でも、雲のたたずまいを見ると、ひょっとすると秋の気配が忍び寄っているのかな?…と思ったりしました。Img_0696


有楽町の交通会館の地下のギャラリーでは、I関M吉くんの5回目の油絵展が開かれていまして、熱中症を気にしいしい鑑賞に行ってきました。いやあ、色使いといい構図といい、M吉くんはまた一歩画境を深めたような気がしましたぞ。Img_0694


これがM吉くんの自画像です。お顔が細すぎますけれど、ややショボくれた感じ(笑)がよく出ていて、冷静に
客観的に自己を見つめたのは、画家として天晴れ、あっぱれ。Img_0695


私は、2点の裸婦像が存在感があって、好きでした。M吉くんのこの個展は土曜日まで開かれていますので、暑さの砌ではありますが、できるだけ多く観にいってほしいなと思います。 交通会館の地下、シルバーサロンCというこじんまりした画廊です。


三伏に売る木村屋のパンの臍       大波

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小説「新参者」

阿部寛主演のテレビドラマ「新参者」が妙に面白いので、ついふらふらと原作小説を読んでしまいました。ところがこれが、今や村上春樹に次ぐベストセラー本だったんですってね。テレビのパワー恐るべし。でも、小説もケッコー面白かったですよ。東野圭吾という作家は、ほんとうに練達の職人で、以前からミステリーと人情ものの合わせ技に長じていましたが、この「新参者」でそれが頂点に達した感じです。別に文体が凝っているというわけではなく、表現が感覚的に迫ってくるというのでもなく、むしろ淡々と物語っている感じなのですが、決して読み手を飽きさせない絶妙なストーリーの展開に最後まで引きずられたという気がします。直木賞を獲得した「容疑者Xの献身」でも、巧みなストーリーつくりが驚異の殺人トリックを支えていたと思います。小説「新参者」のもう一つの魅力は、主人公の刑事加賀恭一郎の飄々とした性格描写にあると思いますが、テレビドラマの阿部ちゃんは流石にそれをそのままナチュラルに演じていましたね。…たてつづけに小説を読んだのは、ほんとうにひさしぶりのことですが、本屋大賞を取った「天地明察」という本も面白そうだから、読んでみようかな。

  おつとめの太鼓とどろき四月尽く       大波

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