スタン・ゲッツ闇の時代
とうとう私の老いたる歯の滅びゆく時代がはじまって、おととい奥歯二本を引っこ抜かれました。その痛かったことといったら!筆舌に尽しがたい痛さでありました。その現場写真は……そんなもののある筈がありません(笑)。
これは、村上春樹さんの旧著を文庫化した「意味がなければスイングはない」(文春文庫)で、このところ歯の痛みに耐えながら読みつづけておりました。相変わらず、春樹さんの音楽エッセイは小説より面白く(ハルキ小説ふぁんのみなさん、ごめんなさいね)、なかでもジャズ・プレイヤーのスタン・ゲッツについての一文に感服いたしました。
テナー・サキソフォン奏者スタン・ゲッツのLPを、私は15枚ほど持っていて、まあまあのファンと言っていいかも知れません。ナマのステージに接したこともありますしね。そのゲッツが麻薬にどっぷり浸かって溺れる様子を、春樹さんは克明に書き綴り、しかも彼がどんなにヘロインで心身を蝕まれようと、テナーサックスで紡ぎだす音楽は「天国的な」美しさだったと述べています。
私も、まるで空間に曲線的な模様を描いていくようなゲッツの演奏が大好きだったので、春樹さんがいかにヘロイン中毒患者ゲッツの音楽を愛していたか、がよく分かります。ゲッツの天国的な音楽に「何も言わず、何も思わず、ただ耳を傾けていたいのだ」という心情に深く共感しました。このほか、この春樹さんの本には、ジャズだけではくて、ロックからクラシック、スガシカオのようなポップスまで幅広く取り上げていて、音楽好きにはおすすめの一冊ですね。おんや、あすは「大寒」ですってね。
歯を抜かれ空いたる口に風疼く 大波
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