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芭蕉庵桃青

時代小説というか、チャンバラ小説と言うか、その種のエンターテイメント小説は今も隆盛で、本屋さんにいくと文庫本のスタイルで佐伯某とか鳥羽某とかのシリーズがどっさり並んでいます。そのうちの一冊を手にとってパラパラ頁をめくってみるのですが、どうしても馴染むことができません。まるで劇画みたいにヤケに面白そうなのが、逆に抵抗感を覚える原因のようなのです。ヘソ曲がりじじいとしては、どうやら往時の海音寺潮五郎や、五味康祐、そして、中山義秀のような昔風のゴツゴツとした手触りの文体でないと、「時代」を読んだ気分にならないようですね。まあせいぜい司馬遼太郎、藤沢周平、池波正太郎どまりでしょうか。なかでも好きだったのが、中山義秀の「信夫の鷹」や「咲庵」などの歴史ものでしたが、この人は元来「碑」や「テニヤンの末日」などの本格的な文学作品を手がけていただけに、浮ついているところの全くない本当の文人でした。この中山義秀の「芭蕉庵桃青」(中央公論社)は、一応小説の形式をとりながらも、食道癌の手術をうけたあと昭和44年に亡くなるまでに書き継がれてきた芭蕉の評伝です。病と闘いながら芭蕉の生涯を追った文章は、余分なものをすべて削ぎ落とした迫力に満ちていると思います。本の末尾に「読者へ」として、全26章まで書いてきてあと二回で未完となったことを口述筆記で告げているのが、胸に迫ります。機会があったら、図書館などで手に取ってみるのも、いいかも知れません。

  玉解きて閑かに芭蕉林かな        大波

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